在宅医療を受ける患者さんの疾患や家族関係、介護環境は実にさまざまです。たとえば、世間では一人暮らしの高齢者が認知症になると、施設に入るのが一般的になってきています。しかし、在宅医療を受ける患者さんは、一人暮らしで認知症である場合が珍しくありません。最近姿を見なくなった一人暮らしの高齢女性を心配して、近所の人が市区町村の高齢者担当の係に連絡し、担当者が訪問してみると、その高齢女性は認知症が進み、大変なことになっていたケースがありました。アルツハイマー型の認知症で、夏なのにエアコンをつけることなく真冬のセーターを着て、筋力低下もあり布団の中で長期間排せつをしていたのです。食事は保存食を食べていたようで、栄養状態はあまりよくありません。ですが、病院へ行くことを強く拒絶したため、在宅医療を開始することになりました。看護師とヘルパーの頻回の訪問で、改善に向かったようです。
そして、超高齢化社会が進んでいる日本でもう1つ深刻な問題になっているのが、老老介護でしょう。在宅医療の現場では、とても多くの家族が老老介護を行っています。80代後半の脳出血後遺症・右片麻痺の女性を、90代の夫と実姉が介護しているケースがあるのです。車椅子への移乗は、90代の介護者が交代で行っています。オムツ交換などは家族だけではなく、訪問看護師やヘルパーにも頼るようにしているのです。訪問診療の医師とは近所付き合いもあり、長年の知り合いですが、主治医も高齢で緊急対応は困難となっており、家族以外の老老介護も珍しくなくなってきています。